「さっぽろ・むかしむかし」(大西泰久著)の51話に次のような一節がある。
「気候もよいとなると、自然に人出も多くなるだろう。一年の中では一番良い時期となるわけである。この日が定められたころの札幌まつりは、それこそ全町民が一人残らずこれに参加したといっていよいほどだった。」
ここに出てくる「札幌まつり」とは、もちろん現在の北海道神宮祭のこと。「札幌まつり」を6月15日と定めたのは、明治5年のことだが、それ以来、札幌の人はこの日を境に夏衣に着替え、1年のうち、最も良い季節と思ってきた。これは長い間札幌に住み慣れた今の人にとっても同様である。
今から振り返っても「よくもこんな良い時期にお祭りを」と思うが、当時の6月半ばといえば、ニシン漁も一段落し、農家も種まきを終わってほっと一息ついた頃。祭りには大変都合の良い時期だったわけで、気象条件から決められたものでは無さそうだ。
ところで、北海道神宮祭の頃は本当に良い天候なのだろうか?。さきほどの話からも分かるように「都合が良い」と「気象条件が良い」とでは意味が違うので、ここでは一般生活にとって「よい天候」とは何かについて考えてみよう。
少々理屈っぽくなるが、人間の体温調節に関係するものとして、放射と発汗による潜熱の放出がある。外気温が低くなって体表の放射が大きくなると寒さを感じ、一方、高温・多湿で発汗により奪われる熱のバランスが崩れると不快を覚えるようになる。
暑さに伴う不快感を示す量として「不快指数」があるのはご存知の通りだが、寒さについても暖房を必要とする目安として、日平均気温10℃が一応の基準になっている。ただし、北海道では朝晩暖房の欲しい日もあるので、日平均気温より日最低気温10℃以下の方が実情に合う。これを要暖房日数としよう。そこで、6月を中心とした札幌の要暖房日数と不快日数を調べてみた。図1はこれら両指数の4月から8月にかけての変化である。

図1:要暖房日数と不快日数(札幌)
ここに掲げた要暖房日数(日最低気温10℃以下)は、最近10年間の平均値、また不快日数は、丸善・理科年表による札幌15時の不快指数75以上の月別日数(30年平均)である。
図の特徴は今更説明の必要がないくらいはっきりしている。青の要暖房日数は6月に入ると急減し、6月中旬以降はほとんどゼロになるし、赤の不快日数は6月中は1日あるかないかのさわやかさである。俗にいう「暑くもなく寒くもない」という言葉がピッタリなのが札幌の6月、「札幌まつり」のころはやはり良い季節だったのである。
(作成)文・資料とも柏原辰吉氏,平成10年
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